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笠松宏有記念館|海辺の廃校で出会う、奈留島の「愛と祈り」
資料館

笠松宏有記念館|海辺の廃校で出会う、奈留島の「愛と祈り」

〒853-2204 長崎県五島市奈留町船廻937-1
アート
奈留島
電話

OVERVIEW

奈留港から車で約10分。船廻地区の海沿いを進むと、どこか懐かしい姿を残した一棟の校舎が見えてきます。

ここは、奈留島出身の洋画家・笠松宏有の作品を展示する笠松宏有記念館です。

建物は、132年の歴史を刻み、2007年に閉校した旧船廻小学校。児童たちの声が響いていた教室や廊下を生かし、2008年に美術館として新たな時間を歩み始めました。

目の前には、透き通った青い海が広がる宮の浜海水浴場。隣には、ナタオレノキなどの巨木が茂る船廻神社社叢。背後には、緑に囲まれた宮の森総合公園があります。

海と森に包まれた、かつての学び舎。

その静かな空間で出会えるのは、故郷の海、家族への愛、戦争と平和、そして祈りを描き続けた、一人の画家の生涯です。

132年の記憶を残す、海辺の小学校

笠松宏有記念館の大きな魅力は、作品だけではありません。

その作品を展示する建物自体にも、奈留島の時間が刻まれています。

旧船廻小学校は、明治初期に開校してから約132年にわたり、地域の子どもたちを見守ってきました。2007年3月に閉校した後も、校舎を壊すのではなく、当時の面影をできるだけ残したまま改修。翌2008年7月5日、笠松宏有記念館として開館しました。

エントランスや1階部分には、小学校だったころの雰囲気が残されています。

観光地に新しく造られた美術館ではなく、島民の記憶が積み重なった校舎で絵を見る。

その体験は、一般的な美術館とは少し異なります。

教室へ向かう廊下を歩いていると、これから授業が始まるような懐かしさを感じることもあるでしょう。しかし、教室の扉の向こうで待っているのは、黒板や机ではなく、大きな絵画です。

学校としての記憶と、美術館として流れる現在の時間。

その二つが静かに重なっていることが、笠松宏有記念館ならではの魅力です。

奈留島で絵を描き始めた、一人の少年

笠松宏有は、1938年に奈留島で生まれました。

少年時代、島を訪れて絵を描く画家たちの姿に憧れ、10代のころから独学で絵を描き始めます。

1954年には日本キリスト教団長崎教会へ通い、キリスト教の洗礼を受けました。後に笠松の作品を貫く「祈り」という主題は、この信仰と深く結びついていきます。

長崎市の海星高校を卒業した1957年、笠松は画家を志して単身上京。阿佐ヶ谷美術学園で学びながら、同じ年に作品「長崎のみやげもの屋」を独立展へ出品します。

当時、笠松は19歳。

初出品で初入選を果たし、その後は独立展を中心に作品を発表していきました。

島を離れて東京で制作を続けても、笠松の中から長崎と五島の風景が消えることはありませんでした。

遠く離れたからこそ、故郷の海はより深く、鮮明なものになったのかもしれません。

笠松の絵に繰り返し現れる海や船、祈る人々の姿。その背景を知ってから作品を見ると、絵の向こうに奈留島の風や波の音まで感じられるようになります。

一人の画家が描いた、いくつもの世界

記念館では、笠松宏有が初期から晩年までに残した大作82点と小品の中から、作品を順次入れ替えて展示しています。

笠松の画風は、生涯を通して驚くほど大きく変化しました。

初期には、ペインティングナイフを使って絵具を大胆に重ねた抽象画を制作。その後、「子供部屋」と呼ばれる作品群を経て、1974年ごろからは暗い海を背景に、頭部のないマネキンが佇む「五島の夜の海」シリーズを描き始めます。

深い青や黒に包まれた海。

出航する船。

岸辺や室内に立つ、静かな人物像。

画面には物語のすべてが説明されているわけではありません。見る人は、描かれた人物が誰を待ち、何を思っているのかを、自然に想像することになります。

1981年以降、絵の世界は一転します。

夜の静かな海から、光に満ちた明るい「昼の風景」へ。色彩は鮮やかになり、画面には春や旅立ちを感じさせる空気が広がります。

1983年には「旅序章」などを出品し、独立展の最高賞である独立賞を受賞。翌年には独立美術協会の会員に推挙されました。

同じ画家の作品でありながら、時期によって色も構図も印象も大きく異なる。

展示室を巡ることは、一人の画家の人生を、いくつもの異なる世界を通してたどる旅でもあります。

美しい五島の海と、戦争の記憶

1989年以降、笠松は戦争と平和を主題とした「昭和史」シリーズに取り組みます。

笠松が思春期を過ごしたのは、戦後間もない長崎でした。

原爆の爪痕が残る街で目にしたものは、後年まで心に刻まれていたと考えられています。

「昭和史」では、戦争による破壊や人間の苦しみと、それに対峙するような五島の豊かで美しい海が描かれました。

穏やかな島の風景と、決して忘れてはならない歴史。

一見すると相反する二つのものが、一枚の画面の中で向き合います。

笠松の作品は、戦争の悲惨さを直接的に説明するだけのものではありません。

美しい自然を見つめること。

人を愛すること。

平和を願うこと。

そうした日常の大切さを、静かに問いかけてきます。

奈留島の海を実際に見た後で「昭和史」の作品と向き合うと、画面に描かれた青が、単なる背景ではないことに気づくでしょう。

それは笠松が失われてほしくないと願った、故郷の姿でもあるのです。

隠れキリシタンの洞窟から、天使の連作へ

1999年、笠松は潜伏キリシタンが祈りの場所とした洞窟を描きました。

奈留島を含む五島列島には、禁教の時代に信仰を守り続けた人々の歴史があります。

笠松自身の信仰は、日本キリスト教団の教会で受けたものですが、祈りを守った五島の人々の歴史も、画家としての大きな主題になりました。

その翌年の2000年から、笠松は晩年を代表する「天使の連作」に取り組みます。

ヨーロッパの街並みを上空から見下ろすような構図。その上には、地上の人々を見守るように天使が描かれています。

戦争と平和を見つめた「昭和史」。

信仰の歴史を描いた洞窟。

そして、世界を包むように現れる天使。

それぞれの作品は異なる姿をしていますが、根底にあるのは、人々の平穏を願う祈りです。

笠松は2005年、制作を続けていた最中に亡くなりました。

就寝直前まで描いていたとされる未完の大作「春」は、「天使の連作」の第6作として、死後に独立展で公開されています。

完成していないからこそ、画家の手が止まったその瞬間と、なお描き続けようとしていた思いが伝わってくる作品です。

「愛と祈りの画家」と呼ばれる理由

笠松宏有は、「愛と祈りの画家」と呼ばれています。

その言葉は、宗教的な題材を描いたという意味だけではありません。

笠松は、絵を描く行為そのものを、神へ祈りを捧げることと重ねていました。

故郷の海を思うこと。

家族を見つめること。

戦争によって失われたものを記憶すること。

平和な世界を願うこと。

笠松にとって、それらは別々のテーマではなく、すべてが一つの祈りへつながっていたのでしょう。

画風は、抽象画から静かな夜の海、明るい昼の風景、戦争を描く連作、そして天使へと変化しました。

それでも、長崎と五島という二つの故郷への思い、信仰、家族への愛は、作品の中を流れ続けています。

美術に詳しくなくても、難しく考える必要はありません。

まずは気になる絵の前で足を止め、色や人物、海の表情を眺めてみてください。

見る人自身の記憶や大切な人への思いが、作品と静かに重なる瞬間があるかもしれません。

作品を展示するだけではない、島のアート拠点

笠松宏有記念館は、一人の画家の作品を保存するだけの施設ではありません。

芸術による地域活性化を目指した「五島モンパルナス構想」の拠点として整備され、旧教室を利用した美術教室、島内外の作家による展示、創作活動、クラシックコンサートなど、さまざまな文化交流に活用されてきました。

学校だった場所で、再び誰かが学び、何かをつくる。

児童のための教室は、画家のアトリエや島民の創作場所へと役割を変えました。

校庭には、陶芸作品を焼くための大きな穴窯も設けられています。窯焚きや展示、ワークショップなどが開かれることもあり、記念館は今も奈留島の新しい表現が生まれる場所です。

開催中の企画展やイベントによっては、笠松作品とは異なるジャンルの美術や、地元住民の作品に出会えることもあります。

何が展示されているかは、訪れる時期によって変わります。

一度訪れた後も、別の季節にもう一度足を運びたくなる美術館です。

絵を見終えたら、外の風景へ

笠松宏有記念館の鑑賞は、展示室を出たところで終わりません。

隣接する船廻神社社叢は、県指定天然記念物です。

ホルトノキ、ナタオレノキ、イスノキ、アコウなど、五島列島の温暖な気候を物語る樹木が茂り、中には幹回りが3メートルを超える巨木もあります。

校庭から少し歩けば、宮の浜海水浴場の青い海が広がります。

笠松が何度も描いた五島の海。

展示室では絵の中にあった青が、外へ出ると本物の光を受けて目の前に現れます。

作品を鑑賞してから海を見る。

あるいは、先に海を眺めてから絵を見る。

順番を変えるだけでも、受け取る印象は違ってくるでしょう。

時間に余裕があれば、宮の浜の東屋に座り、波の音を聞きながら作品を思い返してみてください。

美術館の中と外が、一つの鑑賞空間のように感じられます。

雨の日にも訪れたい、奈留島の静かな美術館

奈留島の観光は、海岸や展望台など屋外のスポットが中心です。

その中で笠松宏有記念館は、雨の日にもゆっくり楽しめる貴重な場所です。

雨音が響く旧校舎で、静かに絵を見る。

窓の外に濡れた木々や海を眺める。

晴れた日の鮮やかな風景とは異なる、落ち着いた島の時間を過ごせます。

大規模な美術館ではないため、作品だけを急いで見れば短時間で回ることもできます。

しかし、笠松作品の変化をたどり、校舎の雰囲気を味わい、周囲を散策するなら、少なくとも45分から1時間ほど確保しておくのがおすすめです。

美術ファンはもちろん、廃校建築が好きな人、奈留島の歴史を知りたい人、静かな場所で旅の時間を整えたい人にも似合います。

訪問前に知っておきたいこと

開館時間は9時から17時までで、最終入館は16時30分です。

休館日は毎週月曜日と水曜日、年末年始の12月29日から1月3日です。

入館料は大人100円、学生50円。五島市内に住んでいる人は無料です。

展示作品は定期的に入れ替えられるため、ウェブサイトなどで見た作品が、訪問時には展示されていない場合があります。

受付と主な展示室は2階にあります。階段の利用が難しい場合や、設備について確認したいことがある場合は、訪問前に記念館へ問い合わせてください。

館内での写真・動画撮影の可否は、展示内容や作品によって異なる可能性があります。撮影する前に、受付で確認しましょう。

臨時休館や企画展の展示替え、イベント開催などにより、通常とは異なる運営になる場合もあります。特に船の時間に合わせて短時間で訪問する場合は、出発前に開館状況を確認しておくと安心です。

LOCATION

立地

アクセス

【奈留港から】

奈留港から車またはタクシーで約10分です。

徒歩の場合は約55分が目安です。坂道や海岸沿いの道路を通るため、歩きやすい靴を着用し、船の出発時刻に余裕を持って行動してください。

島内観光をあわせて楽しむ場合は、レンタカーの利用が便利です。レンタカーやタクシーの台数には限りがあるため、船便を決める際に事前予約しておくことをおすすめします。

【駐車場】

敷地内に駐車場があります。

学校跡を利用した施設のため、イベントや陶芸活動などの開催時には、通常と利用方法が異なる場合があります。現地の案内に従って駐車してください。

【福江港から奈留港まで】

福江港から奈留港までは、高速船で約30分、フェリーで約40〜45分が目安です。

船便、経由地、使用船舶によって所要時間が異なります。最新の時刻表と当日の運航状況を確認してください。

【宮の浜海水浴場から】

宮の浜海水浴場は記念館のすぐ近くにあります。

作品鑑賞と海辺の散策を組み合わせやすく、海水浴シーズン以外にも、奈留島の風景を楽しむ立ち寄り先としておすすめです。

NOTES

備考

  • 入館料は大人100円、学生50円です。
  • 五島市内在住者は入館無料です。
  • 最終入館は16:30です。
  • 笠松宏有の大作82点および小品から、作品を順次入れ替えて展示しています。
  • ウェブサイトなどで紹介されている作品が、訪問時に展示されていない場合があります。
  • 受付と主な展示室は2階にあります。
  • 写真・動画撮影の可否は、撮影前に受付で確認してください。
  • 作品には手を触れず、展示室内では静かに鑑賞してください。
  • 駐車場があります。
  • 月曜日と水曜日が休館日のため、奈留島の日帰り旅行を計画する際は曜日に注意してください。
  • 船は天候によって遅延・欠航する場合があるため、出発前に運航状況を確認してください。

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